車イスで街にくり出そう_札幌

車イス使用者が札幌市を中心に地域活動するのに有用な情報を提供します。

20「車イスお出かけナビ_札幌」の紹介

      目   次        

1 「車イスお出かけナビ_札幌」を紹介します

2 情報提供の対象者群

3 「ナビ」で紹介する対象施設

4 情報サービスの整備目標

5 バリアフリー情報は鮮度がいのち


1 「車イスお出かけナビ_札幌」を紹介します   

 ハートビル法が施行された1994年以降、札幌市では市街中心部およびJRや地下鉄の主な駅周辺から街や建物のバリアフリー化が進みました。しかし、施設や場所がバリアフリー化しても、それらの名前のリスト、所在地、設備内容や供用時間など、使いたい人々が知りたい情報の取得が容易でありません。「車イスお出かけナビ_札幌」(以下「ナビ」と記す)は、車イス使用者が外出に際しあらかじめ知っておきたい情報、どこにどんな施設があるかや交通機関などの活動環境をワンストップで得られる情報サイトを2000年代の中頃から始めしました。本ブログは「ナビ」の特徴および企画、調査や情報化の考え方を紹介します。

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2 情報提供の対象者群   

「ナビ」の設計における情報提供の対象者群は、ざっくり言えば車イス使用者ですがもう少し説明します。
(1) 情報提供対象者群の幅広い身体能力
 人々が車イスを使うに至る理由が多々あり、思いつくだけでも脊髄損傷、脳性麻痺、下肢切断、片麻痺、加齢等々があります。また、能力障害の原因が同じ人々の間でも一人ひとり重症度や人生の背景が異なり、使う車イスも手動、電動、電動アシスト、介助型など、また寸法や小回りなどが多種多様です。さらに、車イス使用者が歩行困難以外に能力障害を抱えることが多く、情報づくりにおいて「車イス使用者」と一括りにすると誤解を与える恐れがあります。ただ、車イス使用者の一人ひとりが必要とする活動環境が異なるので、すべての人に適合する情報をつくろうとしたら、細々とした場合わけや詳細な説明が必要で非実用的になります。そこで、システムの設計ではサービスを提供する「車イス使用者」像を明確にして情報の仕様を考え、そんなモノサシに比べ能力障害が重い人々にも役に立つ表現を探りました。
(2) 幅広い能力障害と要求性能
 障害者用トイレは内部に広い空間があり、手すり付きの便器と手洗い台に吊り構造の引き戸が基本的な構成です。近年はオムツ替え用の台、オストメイトや携行品を置く台を加え、より幅広い利用者群を想定する設計が増えました。そんな障害者用トイレを2000箇所ほど調べ印象的だったのは、見た目が似通う一方で使い勝手が大きく変わる限界条件があることでした。たとえば、便器の前にあと10㎝の空間があれば使いやすいのに、狭いために車イスでの便器への接近や乗り移りに手こずるなどです。
 トイレの使い勝手や限界条件は使う人の能力障害の程度や車イスの種類により異なりますが、設計上は便房の内寸と設備配置との組み合わせが影響します。つまり、内部空間が広ければ多くの人に障壁が起きにくいのですが、狭めなら制約を感じる人が増えます。建物内部の取り合いなどにより障害者用トイレに空間を十分に取れない場合、設置する設備を最小限の構成にとどめ、内部空間、動線、扉や便器ほかの設備配置に細心の設計が要ります。「ナビ」にはそんな観点での情報づくりに腐心しました。
(3) 初めて訪れる人にも優しい情報
 情報提供の対象者群の注目すべき特徴として、それぞれの施設や場所を初めて訪れるということが考えられます。札幌市は住民であっても他の区の活動環境を詳しく知る人は稀ですし、北海道内各地から人が集まりかつ全国や他国から観光客の多い都市です。「ナビ」では土地勘のない人や説明文の理解が難しい人が安心に訪れられる情報提供の可能性を探ります。
 「ナビ」の情報を実際に利用するのに2段階、札幌を訪れる前後の計画段階と使用段階を想定しました。計画段階では訪れる施設や場所、使用する交通手段や経路、また宿泊、食事や休憩の組み合わせなど旅程の検討に使います。使用段階では土地勘のない人が確実に目的の施設や場所にたどりつけ、想定どおりに用を足せることが必要です。前者に対しては遠隔地で旅行計画を練る人が「ナビ」の情報の存在を知り、必要な情報を入手し、旅先での安心を担保する情報が望まれます。後者に対しては現地での施設や場所への確実な誘導と、利用者の期待に違わない情報が必要です。

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3 「ナビ」で紹介する対象施設   

(1) 車イス対応施設の判断のばらつき
 施設や場所が車イスで使えるか否かの判断は、情報提供者の考え方により違いが見られます。たとえば施設内への動線に段差がないことをもってバリアフリーとする情報や便器が洋式であれば車イスで使用できるとする情報がある一方、バリアフリーの標準的な仕様を満たすのに「完全なバリアフリーでない」とするなどです。それらの情報提供者はそれぞれ独自のモノサシに基づくので、利用者の能力障害の軽重により適合しない誘導になり混乱を与える事態も起こります。
(2) 車イスで使える施設の要件
 「車イスで使える施設」をサービス水準ごとに具体例を示すと、次のように分けられます。
 ① 公共の空間から段差なしで目的物にアクセスできる環境です。車イスでの動線や活動空間が適切なら、近間の短時間でできる買い物や食事になら使えます。しかし、滞在が長引く場合には近間に障害者用トイレを見つけねばなりません。
 ② 広域から人が集まる施設や場所なら、障害者用駐車空間が望まれます。そんな配慮のある施設なら、車イスでの活動環境に合理的配慮が期待できます。車で出かけてさっさと用をたして帰るのなら車イスでの利用ができます。
 ③ ゆっくり買い物、食事やエンターテインメントが楽しむためには障害者用トイレが必要です。そんなトイレにある施設なら、多くが①や②の条件をクリアします。
(3) 「ナビ」における車イス対応施設
 「ナビ」では前項の3条件を満たす施設や場所を「車イスで使える施設」と考え、実地調査のうえ使えると判断したら情報を提供します。ただし、一私人が各施設や場所の全体を点検することは事実上不可能なので、外部から一般的な動線をたどり、障害者用トイレを使い戻れることをもって「車イスで使える施設」と判断しました。それらはバリアフリーの標準的な仕様ないしそれに準ずる寸法や設備構成とおおむね一致します。

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4 情報サービスの整備目標   

 「ナビ」を2000年代に入り立ち上げ、その後のIT技術の進展や使い勝手への気づきを踏まえた改造を経て、2020年段階でのサービスの目標の概要は次のとおりです。サービスの具体設計への落とし込みは『21 車イスお出かけナビ_札幌の目標』にて紹介します。
(1) いつでもどこでも最新の情報にアクセスできるプラットフォーム
 ー 自宅でも、出先でも情報にアクセスできる情報システム
 ー 多くの人が外出時も常に身につけるスマートフォン向けに情報提供
 ー 新たな整備や改修、また廃止を即座に反映できるWEB上の情報
(2) 迷子になりにくく、目あての情報を見つけやすい構造
 ー 利用者が具体の情報に至る手順の単純化のため3層の階層構造
 ー 情報を見つけやすく個票のフォーマットを統一
(3) 多様な身体能力や属性の人々にとどく情報
 ー 幅広い身体能力の人々にとどく情報
 ー 日本語を読めない人々に伝わる情報
 ー 土地勘のない人々を確実に誘導する情報
(4) 区域的や目的施設別に空白区域が小さくなるよう情報
 ー 施設の区域的な分布密度に応じた柔軟な情報提供
 ー 施設のサービス分類別に密度に応じた柔軟な情報提供
(5) 外出の動機づけ
 ー バリアフリー化は環境のマイナス幅の縮減のみ
 ー 住宅にこもりがちな人に外出への安心と関心を提供

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5 バリアフリー情報は鮮度がいのち   

 トイレの分布密度が希薄な区域では新設の施設情報を加えるだけでなく、廃止施設の情報を消すなど更新が大切です。存在しない施設を掲載したままならそれをあてに行動する人がいるからです。尿意のない障害者は外出時の尿がたまる頃合いにトイレを使う行程を組みますが、あてにしたトイレがなく代わりのトイレにたどり着くのに時間がかかれば排泄の失敗が起こります。自我の確立した大人が排泄を失敗する事態、しかも出先で起こすことを想像するなら、情報更新の大切さが想像できるでしょう。障害者用トイレの情報は、確認、追加や消去などの維持管理がいのちです。
 札幌近郊では大規模施設の新設や改修が続き、閉店や移転する店もあります。そんな施設を確認、調査して情報を更新することが大切です。札幌を離れると車イスで使える施設や場所の密度がもともと希薄であり、情報の鮮度管理の重要性はなお高いといえます。本件情報の調査や更新の継続にサポーターを募ります。

連絡先:info◉envcom.jp(◉の箇所を@に直してください)

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情報提供:NPO 環境福祉支援サービス プラスアルファ
企画・調査・製作:環境複合研究所